代表者プロフィール

海で育った子ども時代

 両親が浜の仕事で忙しく、子どもの頃は同じく家業が漁師の子ども達とよく外で遊んでいました。遊び場は浜なので廃船を利用してかくれんぼをして怒られたり。生活の中に当たり前に海があり、僕は海のにおいがする町で育ちました。父親も漁師ですし、漁師という存在は身近にありましたが、自分が将来漁師になることは全く考えておらず、母親のママチャリの後ろに乗せられて浜小屋に行き、両親の仕事をただ眺めていました。高校時代には教師になる夢を持ちましたが、これから受験シーズンが始まるというタイミングでその選択を変える出来事が起こります。父親が漁で大ケガを負う事故に遭ってしまい、治る見込みがないという。この状況を目の前にして、ここで家業を絶やすわけにはいかないと、漁師になることを決めました。幸い、父親のケガは順調に回復し、ほどなくして一緒に仕事をすることができるようになりました。何よりも安全第一に気を配らなくてはいけないことを肌で感じ、学んだ出来事でした。きっかけはどうであれ、漁師の道に進むことができたのは、やっぱり海のにおいが好きだったから。こうして僕は、漁師になりました。

「地域の中で生きる」を知った20代

 若手漁師として少しずつできることも増え、それなりに自信がついてきた頃の自分は、金髪でやんちゃな漁師!!という容姿でした。様々な活動に参加することが増え、徐々に地域の人との繋がりを楽しめるようになっていき、呼ばれた飲み会にはすべて参加するようになります。まず、町の人に顔を覚えてもらう機会をつくろうと、動きまわっていました。

 町民劇や子ども向けの交流事業、消防団活動などいろいろな地域の活動に、難しいことはわからないけれどとにかく楽しいから参加する、というのがこの時のスタンス。この町のような小さな田舎は、なにもないと揶揄されることが多いけれど、そこから自分たちの手でできることをやっていこうと集まる仲間たちと過ごす時間は、この地域のいろいろな現状に危機感を覚えつつも前向きな想いを膨らませてくれる充実した時間となりました。また、それぞれのまちで精力的に活動をしている地域を超えた仲間たちと出会えたことも、自分にとって大きな刺激になりました。漁師としてだけではない自分の在り方の基盤が、この時期にしっかりとつくられてきたんだと思います。

 「地域」というコミュニティが自分事として捉えられるようになり、「漁師」としての将来と「地域」の未来についてふと考えるたびに、自分がこの先の人生で何を成すべきなのか、その方向性が少しずつ定まっていくのを感じていました。

漁業改善プロジェクトとの出会い

 地域の中にどっぷりと浸かって、改めて自分の住む地域を見つめ直しました。幼い頃から海と共に生き、大人になった今もなお漁師としてこの地域の漁村というコミュニティの中で生活をしてきた。今、漁村はどうなっているでしょうか。もちろん漁師として働く人も、それに付随した水産業で働く人もたくさんいます。人はいる、だけど、何かが足りない。どこか寂しく感じてしまうのです。僕が知っている漁村は―みんなもっとガヤガヤしていて、少し雑で、もう少し笑っていました。人口が減り続けるこの地域で、以前のような賑わいを取り戻すことは難しいかもしれないけれど、今できることがあるのではないか。もう少しもがいてやろう。そんな思いがこみ上げていました。

 そんな時、FIP(漁業改善プロジェクト)と出会います。FIPは水産関係者や地域、自治体などが一丸となって漁業の持続可能性を高め、その過程を応援するという取り組みです。漁村地域の持続可能性を高めるには、イベントなど催しものをやるだけではなく、まずは漁業の持続可能性を高めていく必要があると気づきました。そこで着目したのが、混獲がほとんどなく比較的環境にやさしい伝統的なミズダコ樽流し漁です。この漁村で多くの人が関わっているこの漁法とこのプロジェクトを関連付け、苫前ミズダコFIPを開始することにしました。開始前から今でもなお様々な課題がありますが、いつまでも豊かなミズダコ資源のために。またみんなでガヤガヤできる漁村を取り戻すために。そんな思いでFIPに取り組んでいます。

2022年、「inakaBLUE」として。

 海と生きて32年。真剣に地域と対峙し、がむしゃらとも言える活動を否定することはできませんが、自分らしさに自信を持ち、一歩ずつ自分と地域の関わり方を見つけ出した頃、分厚い壁にぶち当たります。それは、活動していることが地域に根付いていないということ。また、地域の課題を自ら解決しようとするあまり、活動全体が発展できていないということに気が付きました。この2つの問題を解決しないことには持続可能な将来は訪れません。そう、甘くはない。僕と地域の答えです。

 新たにinakaBLUEを立ち上げ、100年後もタコが獲れる海を残し、いなか町の漁村コミュニティを未来に繋ぐことを約束します。

 皆様に、海と地域を応援したいと思えるきっかけをinakaBLUEを通じて感じてもらいたいです。そしてそのスタートアップとして、「ReTAKO」の開発を始めました。これから様々なアクションを起こし、皆様のもとに海と地域をお伝えします。